いりおもている

西表島 + TALE = いりおもている。西表島へ移住するケツイをみなぎらせた男が、島の生き物や生活のあれこれについて書き綴るブログです。

トゲチョウチョウウオが期待を遥かに超える味だった話

ジーオバー達と並んでミジュンを釣る日々が続いていたある日のこと。

 

今晩も寿司と唐揚げで一杯やろう!と釣れる前提で撒き餌を投げるも、寄るのは色とりどりのスズメダイとチビメッキばかり。ミジュンもハダラも一匹もいやしねぇ。寄る気配も無ぇ。
こりゃダメだと思いつつも少し観察していると、群れの中にそこそこ良型のウメイロモドキが数匹混ざってることに気付く。
コイツらはタカベの仲間だけあって美味しいのですが目が良く、どうもサビキの太糸じゃ釣りづらい。
そこで秋田狐3号に撒き餌のアミエビを擦り付けるという超絶セコい仕掛けにチェンジ。

 

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沖縄ではヒラーグルクンとも呼ばれる

狙い通りの一発ヒット。
きもちい。これだから釣りは止められない。
もう1匹釣って酢締めでも食えればいいや、と思いながらチビメッキやスズメダイに暫く邪魔され続けていると、またもや強めのアタリ!
海中では黄色い魚が暴れている!キタコレ!

 

 

…が、その身体には青色が一切混ざってない。
おかしい。こいつウメイロモドキじゃない。
何だコレと思いつつ、上がってきたのは想定外の魚でした。

 

 

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皆も一度は水族館で見たことあるはず


うわっ、トゲチョウチョウウオだ!
クマノミやツノダシと並んで「ザ・沖縄の熱帯魚」の代表格とされるもののひとつ。
その姿自体は島の海全域、特にリーフでシュノーケリングなんかをしてるとよく見掛ける普通種ですが、まさか狙わずして港で釣れるとは。

 

他のチョウチョウウオともども、釣魚より水族館や熱帯魚飼育の方が圧倒的に印象強い魚種。
そのためググってボウズコンニャクの市場魚類図鑑を開いても、手元の1400種釣魚図鑑でも食味は不明とされてました。
でも有毒だったらもっと有名になってる筈だし、ベラやスズメダイ等の外道にありがちな「大して味に特筆点が無い白身」で皆あえて食べないだけじゃないかなと思う。とてもじゃないけど食欲が湧く見た目でもないし。

 

まあ折角の機会ですし、本命も釣れなかったので食べてみましょう。
ということでコイツとウメイロモドキを1匹ずつお持ち帰り。
帰宅したそばから早速捌いていくぅ!

 

 

まず気付くのが、尋常じゃない量の内臓脂肪。
冬場のイワシなんかを捌いてると内臓と一緒に白い脂の塊が出てくるじゃないですか。
あれと同じものがたっぷり詰まってて衝撃を受けました。南方の熱帯魚、それも小型種がこれほど脂が乗るなんて。

 

しかし油断は出来ません。
沖縄で食用として利用されるテングハギやイスズミは「脂は乗ってるが臭い」という魚の筆頭格。
これらは小動物や藻類を食べる雑食性の魚で、チョウチョウウオの食性もそれらと同じ。なので味や臭いもまた然り…という可能性が大いに考えられます。
それどころか港に居着いた個体ならそれより酷いまであるかも。

 

という訳で恐る恐る内臓を掻き出す。
日頃からサビキ釣りのおこぼれを食っていたんでしょう、内臓は未消化のアミエビでパンパン。
なかなか強烈な臭いがしますが、これはアジやイワシやでもよくあること。
藻類の類は一切詰まっておらず、恐らく先述のような魚達の持つ身の臭みとは無関係でしょう。頼むからそうであってくれ。

 

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もっと上手く捌けるようになりたい

こうして熱帯魚がほぼ骨だけの姿になると、デストロイアのクロール体により水族館の魚が食い尽くされる幼少期のトラウマシーンを彷彿とさせます。でもあれはタテジマキンチャクダイだったかな。
島人曰く「煮付けか汁が美味い」そうですが、初めて食べる魚種という事でここは刺身で行ってみましょう。
ベラなんかの外道がそう扱われがちなんですが、釣魚の食味アドバイスには「○○にしたら美味い(けど俺は持って帰らない)」みたいなパターンも往々にして有り得るので、信じきるのも怖いですが。だって持って帰る人も狙う人も見たこと無いんだもん。メディアでも不明なら経験しかあるまいて。

 

 

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トゲチョウチョウウオの刺身(左)とウメイロモドキの酢締め(右)

はい。
下手糞ながら姿造りにしてみました。
ウメイロモドキは身が柔らかいので皮ごと酢締めに。
こうして見るとキメ細やかで身質も血合いも綺麗ですが、味の方はいかに。
いただきます。


ぱくっ

 

 

 


え"っ!?!!?

 

 

 


一口頬張り衝撃が走る。
まず最初に感じるのが強烈な脂の甘味。
あれだけ内臓脂肪が詰まっていてたので脂乗りの良さについては納得ですが、驚いたのがクセや嫌な臭いがまるで無いこと。
それも懸念していた特有の臭みどころか、生魚ならではの生臭さすら殆ど感じない。

 

 

あれ?でもこの味どこかで…
今度は目を瞑って一切れ食べてみる。

 

 

あっ、イシダイだ!
それもそこそこの良型で脂が乗ったやつ。
味だけで言うなら、デパ地下で刺身10切れ足らずで1パック1400円前後なんて値段で売ってるやつ。あれと一緒。
流石に歯応えはあれに及ばないものの、それでも塩と酢で締めたウメイロモドキよりと比べても圧倒的にしっかりした肉質。
ありきたりな言葉で言うならまさに『適度な歯応え』という感じ。
特に背鰭付近のエンガワの脂乗りは凄まじく、正直これだけでも食べる価値があるとすら思うレベル。
まさかこんな熱帯魚の筆頭格のような魚が、刺身にするとこんな美味い魚だったとは。

 

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せっかくなので生前の姿(別個体)もご覧ください

わかる。
島人が煮付けや汁を勧める意味がわかる。
こんなに旨くて臭いも無い、しかし歩留まりが悪い魚を余すことなく食うには最適解だと思う。
きっと素晴らしい出汁が出るんだろうなと想像に難くない。
煮付けにしても日本酒の肴として最高のものに仕上がるに決まってる。
本当は自分も姿作りのアラを使って後日汁を作るつもりでしたが、運悪く多忙と重なり暫く冷蔵庫に入れっぱなしとなり断念。最初から冷凍すりゃよかった。
次回があるなら丸ごと煮付けか、刺身にしてアラで潮汁かなあ。

 

 


という、全く想定外の味覚に出会えたという話でした。

ひとつ困った事があるとすれば、今まではチョウチョウウオを始めとする熱帯魚を見掛けたら「綺麗だな」と思っていたのが、他種ともども悉く「美味そう」という感情切り替わるという、原始人みたいな条件反射を刷り込まれてしまった点でしょうか。

パブロフの犬もびっくりだよ!

今回は10月の秋頃に釣った個体なので別の季節であればまた違った感想になったかもしれませんが、あの内臓脂肪を見る限り秋冬には脂が乗って美味な魚と言ってもいいのかな。

とりあえず今後釣れたら絶対キープする魚が増えました。何事も経験が大事だと痛感しました。

 

但し八重山の場合、海域公園に指定されている特定のエリアではこれらの熱帯魚の採捕が禁じられているため、ポイント選びにはくれぐれもご注意下さい。